【読書感想】FACTFULNESS-3【優しい世界へ】
「事実を知る」を通して「本能を知る」
FACTFULNESS-1でご紹介した通り、「事実をちゃんと知ろう」という流れの本書は、その章立てを10の本能で区切っています。
最後まで読み終わって感じたのは、本能はどれも大切で、決して否定するだけのものではないこと。一方で、本能のままに感じ、考えてしまうことでチンパンジーよりも真実を見誤ってしまう、ということ。
前半を読み終わった時に感じた「正しいのはわかるし、良い方向に向かっているのもわかったけど、それを知っておくことでぼくはなにが変わるのだろう。どう解釈し、行動に落とし込むのか?」という疑問は、読了する頃には消えていました。
それは、この「徹底的に事実関係をちゃんと把握しようとする」ことが、心ない機械的な事実を把握することではなく、とても優しさと豊かさに満ちたものだと気付いたから。
著者は「良くなってきている世界」をみんなに知ってもらうことで、いまだ貧困に苦しむ層は忘れてしまっても良いよ、と言ってるわけではありません。
殊更に悲観すること、ヒステリックになること、怯えること、焦ることは極端な行動を引き起こし、より極端に悪い弊害をもたらすこともある。だから人間の本能についてよく知り、コントロールすることで「良くなっている」ことと「悪い」ことをちゃんと把握して、一歩ずつ地道にみんなで世界を「より良く」していこう、ということだと思います。
とても良い本でした。あ、デザインも紙質も好きで、たぶんこれらも関係していて、すごく分厚い本だけど読んでいて辛さがなかったです。
読書中、己を省みまくることになった「FACTFUL」な旅
前半の投稿と被りますが、後半の5つの本能は「6. パターン化本能」「7. 宿命本能」「8. 単純化本能」「9. 犯人探し本能」「10. 焦り本能」の5つです。
ぼくの解釈でざっくり分けると
- 人間はシンプルな真理の存在を信じる
- 人間はドラマチックなストーリーや大いなる意志の存在を信じる
それこそシンプルに区分しすぎちゃいけないと思いますが、だいたい6と8が「シンプルな真理の存在を信じる」で、7、9が「ドラマチックなストーリーや大いなる意志の存在をしんじる」です。
え、「焦り本能」は?
うーん、これはもうこのまんまで良いかなと。「焦っちゃうと判断力が鈍るよね」ということです。焦り本能は、たぶん日常的に誰もが認識できていて、認識できているからこそ、その制御が難しいのではと思います。突発的な危険に対応するためには必要で直接的に生命の危機に対応しているので、無くすわけにもいかないし。
あとの4つの本能を2つずつで区切ったのは、これらのテーマがぼくの好きな「物理」だったり「デザイン」だったりの考え方と似ているな、と思ったから。
「なぜそういう現象が起こるのか」の原因を探求するのが物理学で、「どんな現象が実際に起きるか」にくらべるとはるかに少ない事実を突き詰めていく学問だと思います。
デザインも「シンプル イズ ベスト」とか言うし(あまり多用するのは好きな考え方ではないが)、「ドラマチックなストーリー」や「大いなる意志」は広告を作る上でもとても大切な要素だったりします。
よって、これらの注意しなければならない本能に、ぼくはどっぷりつかっています・・・!
そしてこれらの本能に根差した様々な弊害が、本書に書かれている通りに自分に起こっていたりして、あまりのドンピシャ具合に恥ずかしくなったり、ドキッとしたり、反省したりと忙しかったです。
ただ、繰り返しになりますが本能は注意を払ってうまくコントロールした方が良いけど、その存在が悪いわけではありません。
著者は「完全に中立なジャーナリストは存在し得ない」ということも書かれていて、これはジャーナリストに限らず、著者自身も含めて、あらゆる人が当てはまると思います。
数字をどう解釈するか、どの数字を使うか、そこからなにを訴えたいのか、はすべて個人個人の心(それは多くの本能も構成要素である)が決めているから。
そして、本書は著者の心を通して書かれたからこそ、とても優しくて豊かな気づきのある本になったのだと思うのです。
とはいえ、「宿命本能」を読んでいる時は反省したし、「犯人探し本能」あたりを読んでいる時はかなりドキっとしたし、「焦り本能」を読んでいる時は恥ずかしくなった。。。
ファクトフルであることは、心の解像度を上げる
「犯人探し本能」の時に、「これは、良い出来事にも当てはまります」と書いてありました。
つまり、偉業がなされた時には「このカリスマが前人未到の偉業を成し遂げたヒーローなのだ!!」と誰もが祭り上げたくなる、ということです。
これは別に良いことなのでは?と思ったのですが、様々な貧困や疫病のある地域に行き、その地域の人々を救うことに携わってきた著者は次のように言っています。
死に至るエボラウィルスとの戦いに勝てたのは、強いリーダーのおかげではないし、国境なき医師団やユニセフといった有名な組織のおかげでもない。名もなき普通の政府の職員や地元の医療スタッフが、地域活動を通して、いにしえからの葬儀の風習をほんの数日出返させたからだ。彼らが命を懸けて死にかけた患者を治療したからだ。面倒で危険で細かい作業を通して、エボラ患者と接触した人たちを突き止め確立したからだ。社会を機能させている、勇敢で辛抱強い人たちが注目されることはめったにない。でも、本当の救世主はそんな人たちだ。
データと照らし合わせ、冷静に世界を見るということ。
ファクトフルネスであることは、抑えがたい本能を少しだけ黙らせて、本当に目を向けるべき事実を落ち着いて見せてくれる。その時感じる「ドラマチックすぎない」様々な出来事への感じ方は、すごく詳細かつ豊かな「解像度の高い」ものになるのでは、と読んでいて感じました。
ファクトフルネスに生きる、ということをこれから日々実践していけたらな〜と素直に思えた、とても良い本でした!