【読書中】世界史を大きく動かした植物【辛味は痛み】
コショウとトウガラシ、辛さと人類
黒い黄金と呼ばれたコショウは、大航海時代の代名詞的なイメージが強い。みんなコショウや黄金を求めて海に出ていったわけだけど、なぜコショウが重要だったか?それは肉の保存にちょうどよかったから。
辛いものは病原菌や害虫予防に有効で、肉をよく食べるヨーロッパの人にとっては重要なことだった。これらはなんとなくは知っていたけど、この本を読んでみて思ったのは「実はそこまで絶対的に必要だったわけじゃないんじゃない?」ということ。
その後に登場するトウガラシも含めて、こういった「辛い」植物は高温or多湿な地域にしか生息してないそうです。理由は上記の通り、「病原菌や害虫」被害が高温多湿な場所の方が起こりやすいから。
ヨーロッパはそれほど暑くはない。けど肉は放っておけば腐る。だからコショウが重宝する。でもインドやアジアの高温多湿な地域ほど切実じゃない、だからトウガラシほど辛いものは辛すぎて流行らなかったそう。
ヨーロッパは大航海時代を経て世界中を植民地にしていくけれど、この「俺たちが世界の主人公」的な時期だったからこそ、高価なコショウを手に入れることはトレンドだったんじゃないか。絶対無いと困るわけじゃ無いけど欲しくなる、ブランドのバックみたいな感じ。
ちなみに世界の覇権を争っていたスペインとポルトガルは勝手に世界をどう分割するか自分たちで決めていて、西側はスペイン、東側はポルトガルのものってことにしたらしい。大航海時代によって地球が丸いとわかってしまって、「じゃあ西と東は裏側でどう区分する?」となった時、その境目にはちょうど日本があったとか。この「ちょうど境目」っていうのが、ONE PIECEのラフテルに位置づけられそうで面白い。
ヨーロッパ人によってトウガラシがアジアに持ちこまれたのだけど、トウガラシは韓国では流行ったけど日本ではそれほど流行らなかった。その理由は主に2つ。
- 和食は素材の味を活かす文化だった。トウガラシは辛すぎた
- 日本は仏教圏で肉が食べれなかった。韓国は元に支配されていて肉食だったから香辛料が受け入れられた
こうやって見ていると「世界史を大きく動かした植物」というよりは、「人間のいろんな都合によって分布させられた植物」という印象。
まぁこの「分布させられる」ように仕向けるのも植物側の狙いだとするのであれば、「人間が動かされた」ともいえるのかもしれないけれど。
辛いもの好きはドMの薬中!?
人間の味覚には「苦味」「酸味」「甘み」などはあるけど「辛味」というものはないそうです。ではコショウやトウガラシの、あの辛くて美味しい感じは何!?というと、あれは「痛み」
辛い植物が害虫を避ける狙いがあることからもわかりますが、「辛い」って攻撃手段なわけですね。暑い地域、多湿な地域で辛いものが流行る理由も「害虫・病原菌の予防」や「食欲増進」というもの。「おいしい」という感覚にも、ちゃんと「必要性」という理由があるのだということがよくわかります。
ちなみになぜ食欲増進に辛いものが良いのか?の理由にはびっくりしました。それは「痛みの元を早く消化してしまおうと胃が頑張るから」という、けっこうな緊急事態ゆえでした。
この痛みを「緊急事態」と捉えるのは脳も一緒で、トウガラシを食べるとその辛味成分カプサイシンに反応して脳が「エンドルフィン」を分泌する。エンドルフィンは「脳内モルヒネ」と呼ばれていて、鎮痛作用や疲労回復、痛みの緩和などの効果がある。このエンドルフィンの分泌に陶酔感を覚えるため、トウガラシの辛さの虜になってしまう。
世界の三大飲料はコーヒー、紅茶、ココアらしいのですが、これらに共通するのはカフェイン。その化学構造はニコチンやモルヒネと似ていて、神経を興奮させる作用があります。
なぜかはわからないけど、植物にはカフェイン、ニコチン、カプサイシンなど中毒性のある成分が含まれていることが多いですね。
植物は寄生虫が動物を操るのと同じ感じで人間を操ろうとしているのかも・・・
とか考えるとちょっと怖いですね。
第3-4章は辛いもの、コショウとトウガラシの話=予防と中毒のお話だったかなと思います。植物に守られたり、植物に操られたり、それを対立構造ではなく依存する形で歴史が紡がれていて面白いなーと思いました。