【読書中】世界史を大きく動かした植物【ジャガイモは世界を救う】
悪魔の植物が人類をイージーモードに変えた?
南米のアンデス山地が原産地のジャガイモは、大航海時代を経てヨーロッパに持ち込まれました。しかしキリスト教圏においてジャガイモは種芋のみで繁殖する、かなり気持ちの悪い存在で、しかも芽などにソラニンという毒を含む有毒植物。「悪魔の植物」として恐れられていたそうです。
しかし悪条件でも繁殖し、ビタミンCが豊富で貯蔵もしやすいスーパーフードのジャガイモは、正しい食べ方や偏見さえ持たなければ、人間の食料事情をゲキ的に改善してくれます。
ヨーロッパは寒冷な地域で食料事情を一変させるほどには農作物の生産性が高くなく、冬に貯蔵しておける量も知れている。生産性が上がらないということは、食料確保のためには土地を広げるしかない→戦争で土地を拡大するしかない→戦争で土地が疲弊する、という負のループに陥ってしまう、なかなかに厳しい土地柄だったみたいです。
しかしジャガイモの有用性に気づいた人々が自国にジャガイモ文化を取り入れていくことで状況は変わります。
ジャガイモは人間の食料としても栄養が多く、家畜である豚の餌としても使えます。
豚の餌として大量に保有できるので、飼育する豚を増やす→冬の間も順番に食肉にできる→肉食文化がしんとうする→さらに、人はジャガイモを食べれば良いため、食べなくて良い麦類を牛の餌に回せる→飼育する牛の数も増やせる→さらに肉食のバラエティが増える
こうやってみると、ジャガイモ最強ですね。
さらにさらに、船乗りの天敵であった壊血病はビタミンC不足が原因でしたが、ジャガイモはビタミンCが豊富なために船乗りにとっても必需品に。
これだけ多くの問題を解決するスーパーフード・ジャガイモが、ちょうど科学の夜明けを迎えつつある人類にジャストタイミングで発見・普及していく様を見ていると、やっぱり人間原理ってあるのではないか、と思ってしまいます。
ジャガイモは、確かに世界史を大きく動かしている
アイルランドもジャガイモをとりいれ、主食とするほどメジャーになっていました。ただジャガイモの力に頼りすぎてしまったせいで大変な悲劇に見舞われます。
ジャガイモで食糧難を解決できるとわかったアイルランドでは収量の多い一種類のジャガイモを大量に繁殖させて、そこに食料事情を依存させていました。ある日その一種が疫病に侵されてしまったために、瞬く間に国中のジャガイモが食べられなくなり、100万人の国民が命を落としたそうです。
フリーランスの仕事もそうですが、何か一つの強大なものに依存する、というのは危険だということがよくわかります。
ちなみに、この大飢饉の際にアメリカに移住したアイルランド民は400万人。そのなかには後のケネディ大統領の曽祖父もいたそうですし、レーガン、クリントン、オバマなどもアイルランド系。ディズニーやマクドナルドさんもアイルランド系、ということらしく、この飢饉がなかったら世界のメジャーはアイルランドだった、なんてこともあるのかもしれません。
またアイルランドは19世紀初めの頃300万人前後だった人口が、ジャガイモの普及により800万人ほどに増えていたそう。ドイツも主食がジャガイモですし、ヨーロッパ全土で食糧難の問題を解決し、航海士の謎の病気問題も解決したジャガイモ。まさに「世界史を大きく動かした」植物と言えますね。
ジャガイモから学んだ「真実」のお話
1. マリー・アントワネットのエピソードに見る「真実」の不確かさ
ルイ16世とマリー・アントワネットと言えば、わがまま贅沢三昧をしてフランスを傾け、最後はギロチン刑に処された、ちょっと頭の悪い王様女王様、というイメージが僕にはありました。根っからの悪人、というより、とにかくわがままなおこちゃまで、それが国のトップだったから悲劇を生んだ、という感じ。
ところが、この本によるとこの二人はジャガイモの有用性に気付いてフランスの食糧難を解決するべく、「じゃがいもを国中に浸透させよう」プロジェクトを推進していたのだとか。
マリーはジャガイモの花を象ったアクセサリーも身につけ、貴族たちにジャガイモ栽培を流行らせようとしたし、国王もわざとジャガイモ畑の警備を厳重にして「重要なもの、良いもの」感を演出して人々の興味をひいたり。
その当時にこれらの施策でどれほどジャガイモが浸透してどれくらいの人が助かったのかはわからない。実際に革命を起こすほどに国は疲弊していたのは事実で、その時のトップだった国王にも責はあるのだろうとも思う。
でも、一方で国のピンチを救おうと施策を打っていたのも事実みたいだし、マリー・アントワネットの悪評の多くはデマや中傷だったのではないか、という説も最近はあるみたいです。
テレビでやっていることやネットニュースでささやかれている芸能人のゴシップ記事を読んで、真実を知った気になってしまうことが僕にはたまにあります。でも、たとえ教科書に載っていることでさえ、真実ではなくて「暫定真実」。つねに「絶対的なことではない」ということを頭の片隅に置いておくことが大切だな、とジャガイモにまつわるエピソードを通して感じました。
2. ジャガイモという名称の由来
ジャガイモというのは「ジャガタラのイモ」という言葉の略語らしいです。「ジャガタラ」とは現在の「ジャカルタ」のこと。南米→ヨーロッパから日本に持ち込まれたジャガイモですが、ヨーロッパから日本に持ち込まれる際にはオランダがジャカルタに寄港してから持ち込んでいたため、こういう名前になったそう。
南米→ヨーロッパ→その中のオランダ→ジャカルタ(寄っただけ)→日本、で「ジャガイモ」。見えている部分だけで語られたりイメージされることでこんな風に名前がつくのだから、面白いですよね。そしてやはり不確か。
今はグーグルでなんでもすぐ調べたり、安価に専門家の意見を聞けたりするので「真実はボタン一つですぐに調べられるもの」だし「あらゆることは正しくあるべき(正しくできるから)」という発想になりがちですが、歴史というのは試行錯誤と勘違いの連続でできていて、だからこそ面白かったりするのだなぁと思いました。
あ、ちなみにカレーライス。カレーってインド発祥かと思っていたら、イギリス発祥らしいです。イギリス人が考えだしたんだって、意外。